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[ビジネス]Epic Games 対 Apple の行方 法の専門家の見方

 

Games Industry の記事を翻訳いたしました(個人名は原文のままです)。
 訳文の一番下にあるボタンからソースのページに移動できます。


 

Epic Games 対 Apple - 法的問題
ゲームを変える可能性のある両社の法的戦いは、
Gamma Law の法の専門家 David B. Hoppe を悩ませます


David B. Hoppe Wednesday 2nd September 2020



訳者注
 長文の記事ゆえ、読みやすいようにソースにはない見出し(アンダーライン)をつけております。目次はありません。上から順に読まれた方が理解が深まります。途中で飽きてしまわれたら、ご退室を。

 

 『Fortnite』のメーカである Epic Games の法的争いが急速に進行しているため、(被告も含め)両社の広報チームは残業しています。
 Apple と Epic は、ソーシャルメディアへの投稿、(批判的)パロディビデオ、たくさんの壮大な対決を経て、ゲーマをそれぞれの側に向けるよう懸命に努力しています。

 

 しかし、法的正当性はどちら側にあるのでしょうか?
 もちろん、それは裁判所の決定事項ですが、以前の同様の事件の規制決定を調査することにより、この決定がどのように展開されるかについていくらかの洞察を得ることができます。

 

 その中で、8月13日付けの元の不服申し立てにおいて、Epic は次のよう述べています。
「Apple による『Fortnite』の(App Store からの)削除は、その巨大なパワーによる暴挙のさらに別の例であり、無理な制約を課し、不法にその100%の独占を維持しようとしており. . . (以下略)」

 

 Epic は、独占禁止法の申し立ての目的で実際に(被告である Apple が)市場(market)を占有していることを含め、その主張を裏付ける証拠を提供する必要があるため、潜在的に困難な道を進んでいます。
 Epic の告訴では、市場はすべての iOS モバイルデバイスで占有されていると主張していますが、Epic はそれを、ぎこちなく2つの部分に分けています。

  • 1)アプリ配信市場
  • 2)アプリ「支払い処理」市場

です。

 

市場を定義する

 iOS モバイルデバイスが市場を占有する(と法廷で見なされる)場合、Apple が「反競争的行為」に従事し、市場を「独占」するという以下の3つの理由で、Epic は主張を確立するのに時間を要さないでしょう。

  • (1)Apple は、他社が自社の(の iOS に対応した)アプリストアを設置(開設)することを妨げています。
  • (2)Apple は、他社が市場で独自の「支払い処理」サービスを提供することを禁止しています。
  • (3)(そしてもちろん、)Apple は市場での販売に間違いなく不当に高い手数料(30%)を課し、消費者に不利益をもたらします。

 ただし、市場が様々なモバイルデバイスで占有されている(と法廷で見なされる)場合、Epic は Apple が独占していることを証明できない可能性があります。
 FTC は、独占禁止法を適用する場合、
「裁判所は会社の市場シェアを調べますが、通常、会社(または協調して行動する会社のグループ)が特定の製品の売上の50%未満の場合は独占権があるとは見なしません。または特定の地域内のサービスにおいても同様です。
 さらに、一部の裁判所では、これよりもはるかに高いパーセンテージを要求しています」
 と述べています。

 

 Apple は合衆国のスマートフォン市場の約半分を占めますが、世界的にははるかに低い市場シェアとなります。Apple の14億人のユーザと比較して、約25億人のアクティブなAndroid ユーザがいます。

 

過去の事例

 1992年のケースでは、Eastman Kodak Co. と Image Technical Servs が対立しました。
 米国最高裁判所は、市場を定義する問題について議論しました。
「Kodak のサービスと(カメラ用)部品は他のメーカのサービスと部品と互換性がない。よって、コダック機器所有者の観点から、関連する市場は Kodak のマシンにサービスを提供する企業のみで構成されている」
 裁判所はさらに、これは事実上の問題であるとすると同時に、ケース固有のものでもあることを意味していると説明しました。

 

 この先例を Epic Games (の訴訟内容)に適用すると、裁判所が狭い定義を市場に適用できる可能性があります。
 (上述の)Kodak の場合、裁判所は市場を狭く見ているため、Kodak は(特定の)サプライ品市場のほぼ100%とサービス市場の80 – 95%を支配していることが見出されました。
 裁判所が、「市場がすべて iOS モバイルデバイスである」という Epic Games の主張に同意した場合は、Apple がその市場に対してほぼ(または完全に)独占権を保持していることを Epic が証明するのはかなり簡単です。

 

 しかし、iOS 以外のモバイルデバイスが市場に含まれている(と見なされる)場合、Epic (の告訴)は失敗する可能性があります。
 Apple の米国市場でのシェアは約50%ですが、世界市場でのシェアは約35%にすぎません。
 合衆国(司法省)対 Aluminum Co. of America では、第二巡回控訴裁判所は、
「『市場の』 60%または64%で十分かどうか疑わしい。33%では、(独占と見なすには)明らかに不十分である」
 と述べています。

 

司法省 vs Microsoft

 司法省による、Microsoft への反競争的慣行に対する反トラスト訴訟には、興味深い類似点があります。
 裁判所は、市場を「IBM 互換パーソナルコンピュータ用のオペレーティングシステムソフトウェア」と定義しました。その定義に基づくと、(当時の)Microsoft の市場シェアは90%を超え、時には95%を超えることさえありました。したがって裁判所は、Microsoft が独占的立場を保持していると判断しました。

 

 FTC によると、Microsoft はオペレーティングシステム(以下、OS)市場での支配的な地位を利用して、「他のソフトウェア開発者を排除し、コンピュータメーカが Microsoft 以外のブラウザソフトウェアをインストールして、Microsoft の OS ソフトウェアで実行するのを防ぐ」ことができた、としています。
 具体的には、裁判所は、Microsoft のインターネットブラウザである Internet Explorer を含め、OS の独占を違法に維持し、販売したすべてのコピーを「Microsoft 製のブラウザを(ユーザに)使用させるため、それ以外の(他者の)ブラウザを使用することを技術的に困難にした」と判断しました。

 

 さらに、Microsoft は、ソフトウェアの使用を奨励するためのリベートと、場合によっては無料のライセンスを付与しました。この慣習により、他のソフトウェア開発会社に Microsoft 以外のブラウザを宣伝(競合)することを思いとどまらせました。
 裁判所は、Microsoft があらゆる形態の競争を「拘束」したわけではないことを認めましたが、Microsoft の行動はライバルが Microsoft から市場シェアを獲得するための最低コストの手段を行使することを効果的に妨げています。

 

 司法省は、訴訟に加わった個々の州とともに、Microsoft が解体されることを望んでいました。しかし事件は、訴訟が進行している最中に裁判官がニュースメディアによる個人的なインタビューに応じたという暴露を含む多くの控訴と、他のねじれを伴う法的物語に変わりました。
 長年の訴訟の後、Microsoft は、競合するブラウザの開発を妨げる特定の反競争的行為を停止することに同意しました。

 

 Epic による Apple の反競争的慣行に関する主張は、Microsoft で概説されているものと非常によく似ています。
 以下は、Epic の TRO(一時的拘束命令)の申立てに記載されているそのままです。

 

「Apple は長年にわたり、iOS の10億人のユーザへのアプリの配布を完全に独占しており、すべての iPhone および iPad で実行されている Apple 製オペレーティングシステム( “OS")を使用して、アプリ開発者に Apple の支払いプラットフォームであるアプリ内アプリの使用を強制しています。アプリで使用されるデジタルコンテンツのすべてのアプリ内購入("IAP" = In-App Purchase)も。
 IAP をアプリ配布に結び付けることにより、Apple はアプリ内決済処理に関する市場でのすべての競争を排除しています。(これにより、)コンテンツのすべてのアプリ内購入に対して、法外な30%の『アプリ税』を課すことを可能にします」

 

独占禁止法の申し立て

 Epic はまた、Apple が IAP をアプリの配布に結びつけることは、独占禁止法である「シャーマン独占禁止法」の第1項に違反していると説明しています。
 シャーマン法に基づく拘束力のある主張を成功させる(法廷で認められる)には、「原告は、

  • 1)被告が2つの異なる製品またはサービスの販売を抱き合わせたこと。
  • 2)被告が抱き合わせ製品市場において、顧客を縛り製品を購入するように強いるのに十分な経済力を持っていること。
  • 3)抱き合わせの取り決めが、結び付けられた製品市場における実体のない取引量に影響を与えていること。

を(証明することを)求められます」
 Cascade Health、515 F.3d at 913(内部引用および引用文は省略)より。

 

 ここでも、関連する市場の定義が重要です。
 Epic による TRO では、欧州委員会が Google がヨーロッパの反競争法に違反していることを指摘しています。 そこでは、「他のライセンス可能なスマートモバイル OS 用のアプリストア(非独占)」と「Apple の App Store、つまり、ライセンス不可のスマートモバイル OS 用で、Android アプリストアと同じ製品市場に属していない(独占)」ということが見出されると。
 もちろん、この状況では、すべての iOS モバイルアプリの配布の100%が App Store 経由で行われるため、Epic の主張が認められる場合、Apple は明らかに市場のこの狭い定義で独占権を握っています。

 

 しかし、Epic Games 対 Apple の戦いは興味深い問題を提起します。独占禁止法訴訟の被告が実際に独占していると非難されているまさにその市場を生み出したとき、何が起こりますか?
 裁判所がこの独特の状況についてどのように感じるかを予測するのに役立つ法的先例はありません。

 

囲われた庭 -自由か安全性か-

 ただし、Wired Magazine は、Elizabeth Warren 上院議員(D-Massachusetts)がFacebook、Google、Amazon などのテクノロジィ企業が所有するプラットフォームに参加することを禁止したいと報告しました。
「彼女の計画では、たとえば、Amazon が自社ブランドの製品を独自の市場で販売することを妨げ、Google の広告業と Google 検索を分割する必要がありました。
 これは、Open Markets Institute などの独占禁止グループによって称賛されたためでもあります」
 Warren 氏はまた、この計画は Apple と App Store を解体することも必然的に意味することを説明しています。
「彼らはプラットフォーム(iOS)を実行するか、(デジタル販売)ストアを運営します。彼らは同時に両方を行うことはできません」

 

 とは言っても、Warren 上院議員のスタンスは、市場運営者としての Apple が、消費者が自主的に代替製品を選択する独自のテクノロジィプラットフォームを構築および維持しているという事実を無視しています。
 提供される価値の一部は、いわゆる「囲われた庭」です。ここでは、サードパーティのアプリが慎重に吟味され、詐欺行為が積極的に監視され、(違法なものは)閉鎖され、テクノロジィが継続的に維持および改善されます。
 これはまさに、問題に関する Apple の立場です。

 

 市場を定義することは、裁判所がこの件を裁定するために重要です。3つの実行可能な定義があり、それぞれに実際のサポートがあります。

  • 1)すべての iOS モバイルデバイス
  • 2)米国内のすべてのモバイルデバイス
  • 3)全世界のすべてのモバイルデバイス

 裁判所がどの方法で決定するかは不明ですが、1つ明確なことがあります。Epic Games と Apple の訴訟に起因する決定は、どちらの決定が有利であろうと、アプリの将来に確実に大きな影響を及ぼします。アプリ内購入にも。

 

 

編集部より筆者紹介


 David B. Hoppe (デビッド・B・ホップ)氏は、ビデオゲーム、eSports、バーチャルリアリティ、デジタルメディア、その他の最先端テクノロジィビジネスの法的側面に焦点を当てている小規模企業である Gamma Law の管理パートナです。
 スタートアップ、成長する企業、グローバル化する企業の日々の現実を実践的に理解し、国際的なトランザクション弁護士として25年近くの経験を持つ David 氏は、スタートアップや起業家からビジネスライフサイクルのあらゆる段階でクライアントを代表しています。その仕事はグローバルな上場企業にも及びます。
 また、著書には

  • Esports in Court
  • Crimes in VR
  • 51%Attack: Key Trends and Developments in Esports
  • VR and AR
  • Blockchain and Cryptocurrencies(2020年出版、Vision 2020 Press より)

があり、私たちの時代に最もダイナミックで急速に進化する産業をつぶさに追っています。

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ついでに、「管理人からひとこと」を読んでみる



 

補足 FTC(Federal Trade Commission)

 連邦取引委員会。
 主に、合衆国での独占禁止法の促進と消費者保護を目的とする機関です。
 連邦取引委員会法の成立とともに、1914年に設立されました。

 日本では「公正取引委員会」がそれに当たります。

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補足 Eastman Kodak Company

 アメリカに拠点を置く写真用品メーカ。1881年創業。
 通称 Kodak(コダック)。
 日本法人は、コダック合同会社。完全子会社です。

 主に、デジタルカメラ事業において他社に遅れをとり、業績が落ち込み、2012年に倒産(上場廃止)。
 その後事業内容を大幅に改め、2013年に再上場しました。
 なお Kodak は、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、医薬品の生産を開始すると発表しました。

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補足 合衆国(司法省)対 Aluminum Co. of America

 アメリカの独占禁止法に関する画期的な決定として知られる訴訟。「United States v. Alcoa」とも表記されます。
 Alcoa は、アルミニウムのインゴット(工業用にすぐに加工できるよう精製されたもの = 原料)を製造していた企業です。

 Franklin D. Roosevelt(フランクリン・D・ルーズベルト) 大統領在任中、司法省は Alcoa が市場を独占しているとして解体を求めまし(1938年)。
 詳細は割愛しますが、この案件は特殊な市場(当時の Alcoa は、アルミニウムの高い需要から、常に増産を余儀なくされていました)でのシェアについてであり、産業構造を鑑みて、「独占的状況は起こりうるもの」と裁判所が認めた事例です。
 この判例は、「市場とは何か」を法廷で具体的に吟味した注目すべきものとされています。

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補足 第二巡回控訴裁判所

 そもそも、「United States v. Alcoa」訴訟は、訴訟が審議されるまでに時間を要しました。
 裁判は1938年6月1日に始まりましたが、裁判官は4年後に事件を却下しました。そのため政府が上訴。
 それから2年後の1944年、最高裁判所は、裁判官の数名が失脚したため、事件を審理するための定足数を集めることができなかったと発表しました。よって、第二巡回控訴裁判所に持ち込まれました。

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補足 Open Markets Institute

 大企業の市場独占を監視し、問題提起をする合衆国の団体。
 直訳すると、「市場開放機関」。
 公式サイトはジャーナリズムを兼ねています。

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補足 囲われた庭(walled garden)

 あくまで直訳です。
 不法な介入を許さず、安全性が保たれている、という意味です。

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管理人からひとこと

判断する司法の側も大変ですね。類似の前例があるとはいえ。
ヒトはどこまでも、利潤を追求する生き物です。IT 化においてなお。
そして企業とは、どれほど大きくなろうとヒトそのものです。


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